この道20年の水道職人として数多くの現場を見てきた経験から言えるのは、トイレの吸い込みが弱いという悩みの8割は、日頃のちょっとしたメンテナンス不足が原因であるということです。多くの人が「水が流れているから大丈夫」と考えがちですが、トイレは非常に精密な水圧計算の上に成り立っている設備です。その吸い込みの良さを維持するために、私がお客様に最初にお伝えするのは、便器の底にあるゼット穴の重要性です。多くの便器には、排水路に向かって水を勢いよく噴き出すための小さな穴が開いています。ここから出る水がサイフォン現象の引き金となるのですが、この穴は尿石が最も溜まりやすい場所でもあります。市販のブラシでは届きにくいため、鏡を使って穴の中を覗き、割り箸や古い歯ブラシに尿石除去剤をつけて丁寧に掃除するだけで、吸い込みの勢いが劇的に変わることがあります。また、最近増えているのが、節水のためにタンクの中に水を入れたペットボトルを沈めている家庭です。これはプロの視点から言えば、吸い込みを弱くする最大の要因です。タンク内の水の量は、その便器が設計された際に必要とされる最低限のエネルギーを計算して設定されています。ペットボトルを入れて水位をかさ増しすると、一見すると水位は正常に見えますが、実際に放出される水の重さと圧力が不足するため、サイフォン現象が不完全になり、吸い込みが弱くなってしまいます。結果として、一度で流れずに二度流すことになれば、節水どころか水の無駄遣いになってしまいます。さらに、流せるお掃除シートの使いすぎにも注意が必要です。水に溶ける性質を持ってはいますが、溶けるまでに時間がかかるため、吸い込みが弱くなっている状態のトイレに何枚も流すと、排水路のカーブ部分で停滞し、さらに状況を悪化させます。もし吸い込みが弱いと感じたら、まずはタンク内の余計なものを取り除き、便器内の水流出口を徹底的に掃除してみてください。そして、バケツ一杯の水を一気に流してみることで、排水管の奥に溜まった空気を押し出すのも効果的です。自分の手で解決できる範囲を知り、正しく手入れをすることが、トイレという最も大切なライフラインを長持ちさせる秘訣なのです。
水道職人が教えるトイレの吸い込み不足を解消するメンテナンス術