巨大地震や大規模な災害が発生した際、私たちは電気やガスの供給を止めることには意識が向きますが、水道の元栓を閉めるという行動は忘れ去られがちです。しかし、震災時における二次被害を防ぎ、貴重な水を守るためには、元栓の遮断が極めて重要な意味を持ちます。大きな揺れによって家の中の配管が破損したり、給湯器が転倒して接続部が破断したりすると、そこから大量の水が漏れ出し、家財を汚染するだけでなく、避難経路を塞いだり、感電の原因になったりする危険性があります。また、断水が解除されて通水が再開される「通水火災」ならぬ「通水漏水」も深刻な問題です。不在時や就寝中に水が再開し、壊れた配管から溢れ出すことで、せっかく助かった家が水浸しになってしまうのです。これを防ぐためには、揺れが収まって安全が確認できたら、速やかに元栓を閉めることが推奨されます。そのためには、日頃から「暗闇でも、泥にまみれても、迷わず元栓にたどり着ける」訓練が必要です。元栓ボックスの蓋を開けるための専用の鍵や、固くなったハンドルを回すための補助工具を、防災セットの中に含めておくのも良いアイデアでしょう。特に高齢者や力の弱い方がいる世帯では、元栓の操作が負担にならないよう、レバーを延長する器具を装着しておくなどの工夫も有効です。また、元栓を閉める前に、バケツや浴槽にできる限りの水を貯めておくことも忘れてはいけません。供給を止めるということは、それ以降の生活用水を確保できなくなることを意味するからです。災害時には、行政からの指示を待つのではなく、自らの判断でライフラインを制御する力が求められます。元栓を閉めるという判断一つが、自宅の浸水を防ぎ、マンションであれば階下の住人への加害者になることを防いでくれます。災害はいつ、どのような形でやってくるか分かりません。平時のうちに家族で元栓の場所を確認し、誰がどのような手順で閉めるのかをシミュレーションしておくこと。この地味な備えこそが、極限状態において家族の安全と財産を守り抜く、最も確実な盾となるのです。水道の元栓は、単なる設備の部品ではなく、私たちの危機管理能力を試すバロメーターであると言えるでしょう。