築40年を超える祖父の家を譲り受けた私は、歴史の染み付いたその家を少しずつ手入れしながら暮らしていました。しかし、住み始めて数ヶ月が経った頃、1階の廊下にある古いトイレから、言いようのない不快な臭いが漂ってくるようになりました。便器を覗き込むと、溜まっているはずの水がほんの僅かしかなく、排水口が口を開けている状態でした。古い家ゆえのガタが来たのだろうと考えましたが、その水位の減り方は異常でした。朝に水を流しても、夕方帰宅する頃には半分以下になっているのです。私はこのミステリーのような現象の原因を突き止めるべく、調査を開始しました。まず疑ったのは、床下への漏水です。しかし、床板を剥がして点検口から覗いてみても、配管の周りに水漏れの跡はありません。次に、タンクの中の部品を全て新しいものに交換しました。これで解決したかに思えましたが、翌日にはまた水位が下がっていました。私は途方に暮れ、地元の古い職人さんに相談することにしました。やってきた職人さんは、私の説明を静かに聞いた後、便器の周りを這いつくばるようにして観察し始めました。そして、ある一点で指を止めました。そこには、肉眼ではほとんど判別できないような、髪の毛ほどの細い筋が陶器の表面に走っていました。職人さんは「これは貫入(かんにゅう)ではなく、本当のヒビだね」と言いました。古い陶器の表面には経年変化で細かい模様が入ることがありますが、それは表面の釉薬だけの問題です。しかし、この便器には構造自体に達する深い亀裂が入っており、そこから水が陶器の内部を通って少しずつ排水路へと逃げ出していたのです。40年という長い年月、家族の体重を支え続け、温度変化に耐えてきた便器が、ついにその寿命を迎えた瞬間でした。どこがいい修理業者かという以前に、これはもう交換するしかないという結論に至りました。職人さんの手によって新しく据え付けられた真っ白な便器は、たっぷりと豊かな封水を湛え、それ以来あの不快な臭いが家に漂うことは二度とありませんでした。水位が減るという単純な現象の裏には、こうした長い年月の物語が隠されていることもあるのです。古い家と付き合っていくことは、こうした不具合の一つひとつと対話し、適切に対処していくことなのだと学びました。それ以来、私は毎日トイレを磨くたびに、水面が静かに輝いているのを確かめては、この家の一部である新しい設備への感謝を忘れないようにしています。水位が一定であることの、なんと贅沢で安心なことか。それは、当たり前の日常が守られているという確かな証拠なのです。
古い家のトイレで起きた水位低下の原因を突き止めた物語